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【連続囲碁小説】 外来  2017年09月30日
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外来の第1章は、主人公・新井英彦が得体の知れぬ男・金海英夫と知り合い、韓国の囲碁界の裏側をかいま観る事から、自身の囲碁の棋力を向上させて行く展開。
現在世界一とも言われる韓国棋院のルーツ、そして囲碁を通して韓国人が抱く、日本囲碁界への怨念・・・それらが複雑に絡み合って、主人公・新井英彦が目覚める(真の棋士への道程)
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No.31 2016年08月17日 
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【連続囲碁小説】 外来 第2章 助走 8

 英彦は悩んでいた。
上辺の白石の大群に何とか活き形を作ろうと思えばそれ自体は簡単な事ではあるのだが、後手活きと言う形で生きるのは辛いし、かと言って白100と打った此方の一団もまた苦しくされているからなんとかせねば為らないのだ。
 快智導師は英彦の白100の手を観て黒1と確り受けて英彦の力を試してみる。ここを英彦がどんな読みを見せるのかが、日頃の指導碁の答えと為るからだ。

 快智導師は黒7と今度は左辺の白石に絡んで見せた。黒石を遠播きにしつつ英彦の中央の白石の一団を取ろうと言う手段だ。
普段、快智導師に鍛えられている英彦にとって、ここは瞬時に生き形が有る事は解かり、白14と迄の進行と為った。
しかし、問題はここの生き死にではなく、あくまでも上辺の白石の一団の事であった。
快智導師も英彦もこの考え方は同じであり、英彦の白14の手を観てから、いよいよ黒15と打ってみせた。

「英彦君、この辺りの読み筋はどうなんだね? 仮に活き形を作って見せても、白が大分苦しい展開に間違いないと思うがね?」

 英彦は導師の云われる通りだと思いつつも、他へアヤを求めて白20と迄打っては観るのだが、これは低段者の打つ様な進行であり、快智導師は渋い顔をして見せた。
しかし、英彦には何か直感の様なものが心の中に此の時閃いていたのである。
思いついたのが、白24から白30へと続く進行で有り、この辺りにアヤを求めて行くしかない様に思えた。
白34は快智導師がどう受けるか一応の様子見の手で有る。
しかし、快智導師にとってこんな事で変化図等は頭に浮かぶ筈も無く、確りと黒35と継ぐだけだ。

英彦の頭の中に有ったのは、白40と打ち、困り果てて居た中央の白石の一団に先手で助け出しの手を打てると言う進行の図が有った事だった。つまり、上辺の石に拘らず、石の進行を此方の中央へと切り替える、転出作戦である。
其の作戦が功を奏して、白73と打てた事で、大分白石も元気が出て来た。

快智導師と英彦の捻じり合いは、下辺の刧争いへと進行して何とかここを英彦が凌いで見せたのだが、快智導師の黒99と言う痛い一発が打ち下された。

 英彦白100と飛び出して見せるが、ここがどう言う展開へと進行して行くのかは、ジックリと考えねば為らない事である。

ここの対応次第では、一応死に形となっている上辺の白石の大石にも活きのチャンスは巡って来るかも知れないと、英彦は読んでいた。なぜならば、今は3目中手で死んでは居るが、刧等で2手連続打ちが出来れば目形は可能だからである。
この辺りに英彦の碁打ちとしての直感が働く事を、快智導師は《教え甲斐の有る青年》として、英彦を認めつつ指導碁を毎日打っていたのである。
No.30 2016年08月08日 
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【連続囲碁小説】 外来 第2章 助走 7

 英彦が快智導師の暮らす庫裡へ朝の囲碁特訓に顔を出すと、導師は丁度お寺の芳名帳に何やら小筆で書き込みをしていたのが終わった処であった。

「先生、おはようございます。今朝は一局僕の白持ちで打たせてもらえませんか?」
「ほほーぉ、何やら心境に変化でも有ったのかね?」
「今年の外来の試験碁が有りますから、それの訓練を兼ねての事です」
「ワシは白でも黒でも一向に構わんぞ。ワッハハハ」

 そんな会話が終わり、部屋の隅に置かれている導師愛用の5寸盤を英彦は部屋の真ん中へと持ち出してきた。

 碁盤は榧等とは違い桂の盤でしかないが、二人が座布団の上に座り盤を挟んで向き合うと、丁度良い高さの扱い易い碁盤であった。

導師の囲碁の腕前を知っていた檀家のどなたかが庫裡へ持って来てくれたそうで、盤が導師の許へ来てかれこれ30年にも為る年代物の盤で有った。

杉山快智導師の先番で、コミは6.5目出て居た。

導師は星と小目という布石に対して、英彦は2連星。

導師の黒5に対して、ここをまだ受けずに白6と英彦も導師の小目の石を高掛りを打つ。

導師は黒15と手抜きして左上隅へと掛った。

どんなに小さくても活き形である事が確認出来て居れば、直ぐ様別の個所へと先行して行く。

英彦の白26に対しても手抜きして充分との導師は認識しているのだった。

囲碁の布石展開に何よりも大切なのはスピード感で有る。導師の黒77をみて、英彦は白78と手を広げて行く。

しかし、導師の巧みな展開に依り、英彦の石はかなり危ない形に為りつつあった。

英彦が打った白100の手。此の大きな軍団が殺されてしまえば、万事希有すである。
No.29 2016年08月04日 
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【連続囲碁小説】 外来 第2章 助走 6

 新井英彦は学園の寮室でパソコンのキーボードに向かい、≪院生序列≫と言う単語を打ち込み検索を掛けてみた。

 将来の棋士を目指している英彦にとって、現在日本棋院で院生として日々棋力に磨きをかけて居る五拾数名の院生たちが、今どれ程の実力を付けて来ているのかが常に気がかりであったからである。

「ふーむ、8月度は埼玉の川口飛翔がAクラスの1位についに上がったか」

 英彦が毎月院生序列で気に架けているのは、川口飛翔(14歳・埼玉)、関航太郎(14歳・東京)、伊了(14歳・東京)の3名である。

 此の3名は、5月頃には3人ともAクラスの4位から5位・6位と言う位置をキープしていたのだが、6月・7月に為ると関航太郎1位・川口飛翔2位・伊了3位と、他の上位者を蹴落として、上3席を自分たちの定位置とし始めた。

 川口飛翔はそれまで常に関航太郎に頭を押さえつけられていたのに、8月度の席順は川口が1位を捥ぎ取った。

 英彦は今年の外来試験を見事突破出来たら、いずれ棋士採用の本試験で、彼らと激突しなければならないから、彼らの打った棋譜を研究の対象としていた。

 院生制度はAクラスに10名、Bクラスに10名、Cクラスに12名、そして予備的なDクラスに24名から20名程が在籍しているが、日々の激烈な勝ち抜き競争で不成績しか上げられなければ、除席の憂き目にあう。
院生は18歳迄にAクラスの1位か2位でなければ棋士採用のチャンスは望めない過酷なシステムの中で石を打ち続けて居るのである。

英彦は既に16歳と為っていたから、院生に為れる年齢制限の14歳はとっくの昔に過ぎて居たので、院生システムとは別の【外来】枠で、棋士採用試験に臨もうと言うのである。

 しかし、其の外来枠でさえ、ここを受ける実力者を押しのけて勝ち残らねば為らないのである。

 練馬区・世田谷区・杉並区と言う3区合同の囲碁大会では、無差別クラスで悪くても3位入賞をする自信はあるが、外来者の勝ち抜きを経て、棋士採用本試験に臨めるかどうかは、よほど腕に覚えを付けておかねば叶わぬ夢かもしれないと英彦は思っていた。

 「よーし、院生序列がどうなっているか解かったので、これから三宝寺の杉山先生の所へ行って、鍛えて貰おう・・」

 石神井学園の正門を出て、富士街道を突っ切ると、大きな運動場の脇を抜け、三宝寺池の裏側から英彦は、智山派三宝寺の大伽藍迄遣って来た。

 三宝寺の本殿脇には渡り廊下が作られており、其の奥に杉山快智導師の住む庫裡は有る。

青葉の薫り濃い渡り廊下を歩きながら、今日は緩みのないキツイ碁を是非とも打ってみようと、英彦は考えて居た。
No.28 2016年08月02日 
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【連続囲碁小説】 外来 第2章 助走 5

 午後8時に始まったNHKの<東京都知事選・選挙速報>は、スイッチを入れると同時に≪小池百合子氏・当選確実≫のテロップが画面に流れ出た。

 早稲田のくぐつ師との異名を持つ、尾崎定次郎は「案の定・・・」とつぶやき様に、忌々しそうな顔つきでスイッチを切ってしまった。

 此の男、昔は等々力の児玉誉士夫の許で、幾人か居る私設秘書の内の一人だったのである。
秘書団の中で、太刀川恒夫が頭を取ってはいたが、ロッキード事件に連座してその力を削がれてしまうと、太刀川に替わって尾崎が、色々と児玉誉士夫の疑獄事件の証拠隠滅に奔走し、東京地検特捜部が児玉邸に乗り込んで来た時は、既に目ぼしい証拠類は何一つとして残っては居なかった。

 ロッキード事件で恩師・児玉を一部裏切った様な感の有る太刀川は、其の後(東スポ)の役員で有った児玉の息子を新聞社から追い出し、東スポを支配下に納めてしまった事から、尾崎が稲川会にこの話しを持ちこみ、児玉を師と仰いでいた会長稲川角二が社会の裏で其れなりの落とし前をつけた。

 表社会には名前こそ大々的に出ては来なかったものの、稲川も尾崎も次第に政界の裏で名前を増幅して行き、児玉の死を見届けた後は、社会の裏で政界を操れるまでの男にのし上がって行ったのである。

 早稲田の尾崎邸のアルバムの中には、中曽根康弘が自民党の次期総裁に竹下昇を確実に指名すると言う密約を某料亭で念書に認めた際の立会人である稲川会・会長の稲川角二を含めた3人同席の証拠写真も収められていた。

 尾崎が師事していた児玉誉士夫には、在日韓国人という噂が絶えなかった。
 
 確かに児玉8歳の頃、彼は朝鮮に住む親せきの許に預けられているし、京城商業専門学校を卒業して後、来日している過去が有るのだ。
 
 児玉が戦時中<児玉機関>を作り海軍の手先として、大陸で多くの軍事物資を掻き集めて居た事は世間で良く知られてはいるが、戦後巣鴨の拘置所内でアメリカCIAの日本エージェントととして契約を結んでいた事は、日本人のほとんどが知らなかった事である。

 児玉がCIAのエージェント契約を結ぶ際、内閣総理大臣・安倍晋三の祖父に当たる岸信介も、同じくアメリカのCIAエージェント契約を結んでいた事が、戦後50年を経てアメリカの公文書書簡内で発見されている。

 こうした世間が知らない事実を、尾崎は誰よりも詳しく知っては居たが、それらの事は全て秘匿する事で尾崎の大きな武器となって居たのであった。

 死んだ児玉誉士夫は、1965年の日韓国交回復の立役者の一人として位置して居り、同時に韓国の利権に深く喰い込んでいた。

 それらの詳しい内容は、ロッキード疑惑の際に、証拠隠滅
を手掛けた尾崎の知る処と為り、尾崎自身が密かに隠匿していたから、当然韓国利権は後日尾崎の手元に転がり込んで来た。

 今回の東京都・都知事選で小池百合子が知事に就任する事に依り、前知事の舛添えが為してきた【韓国人学校問題】の裏側を、新知事が穿り返しはしないかと言う大きな心配事が、尾崎定次郎には存在していたのである。

 この密かな心配事は以前、住吉会の幸平一家の人間に依って仕組まれ、そして韓国へ持ち去られた一枚の念書に内在しては居たのであるが、今新たに新知事に依り、児玉誉士夫から尾崎へと続いている韓国利権が、世間の表舞台へと登場させてはならないと言う事だった。

 その心配の種を先手で摘み取れるのは、新井英彦の父親である、新井洋一を置いて他にない事を尾崎は誰よりも知っていた。
No.27 2016年08月01日 
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【連続囲碁小説】 外来 第2章 助走 4

「英兄ちゃん、ここはどう言う手を打つのが良いと思う?」
「ウン? どれどれ・・・? ツケコシの手で勝負を掛けてみたいのかい? 5手先までは一本道で進行するだろうけれども・・・その先が問題だな。」

石神井学園の寮生活で同じ部屋に暮らしている中学1年生の晃が、英彦に囲碁の対局ゲームの事で、外から帰って来た英彦の顔を見るなり声を掛けて来たのである。

 都立・石神井学園でも、5年ほど前から園内に有る『どんぐり学級』で、パソコンを利用した教育を幼い園児たちに施し始めて居た。
 いずれ園児達が18歳の自立期限が来た時に、何らかのスキルを身に着けて居た方が良いとの時代にマッチした判断を、学園長がしたからである。

 子供達がパソコンを覚え始める入口は、大抵がゲームの面白さにあり、柔らかい脳を備えている子供は直ぐにパソコンの画面に虜に為るものだ。

 新井英彦と同室の晃は、『どんぐり学級』で教わったパソコンにオタクとも言える才能を見せて居た。パソコンの事なら学園内では「晃君に聞け!」と言うほどである。

 英彦は、囲碁の棋譜収集と、譜面解析の為に学園に来てからパソコンを覚えたが、パソコンに関しては一日の長が晃に有ったので、晃の能力を利用した方が得と思い、晃に囲碁を手ほどきしたのが約1年前の事だった。

 囲碁をまるで知らなかった晃であったが、囲碁ソフトと毎日対局を繰り返す事で、今ではアマ三段位の実力を有していた。カラカラに乾いた砂が注がれた水をあっと言う間に吸いつくす様に実力を付けて行き、今では英彦に4子から3子置きでそこそこの勝負が出来る処に迄来ていた。

 英彦に囲碁ソフトとの対局でアドバイスを受けた晃は、其の後もソフトと20分ばかり戦っていたが、其れが一段落すると、ベッド脇の学習机で日記を書いていた英彦の所へ、一枚のポスターを持って来た。

「英兄ちゃん、ここに書いてある囲碁大会に出てみない?」

晃が見せたポスターには、練馬区と世田谷区そして杉並区の3区合同の囲碁大会の参加申し込み方法が細かく示してあった。

「俺にこの大会に出ろと言う事?」
「違うよ。僕も一緒に出てみたいんだ。こう言う大会に出て僕の力を試してみるのは初めての事だから、お兄ちゃんが居ると色々と心強いから・・・」
「ふーん・・出るのは良い事だけれど、何でこんな大会が有る事知ったの?」
「うん。園長先生が、英彦兄ちゃんに教えてあげて・・と言って、今日この部屋に持って来たのを僕が観て、それで僕も大会に出てみたくなったの」
「そうなんだ。解かったよ。晃が出てみたいと言うならば、参加申し込み用紙に名前を書いておいて・・・」

 学園生活では食事の時間も、入浴の時間も有る程度決まっていたから、此の部屋の長を兼ねて居る英彦は、まだ小学生の孝が表から園に帰ってきていない事が少し気がかりで有った。
 園外では今を盛りと都知事選挙の応援カーのスピーカーが大音響で走りまわっている様子が此の静かな学園内にも否応なく流れ込んで来て、孝を心配している英彦の耳に届いていた。
No.26 2016年07月25日 
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【連続囲碁小説】 外来 第2章 助走 3

 新井英彦が吉田泰子に渡韓費用の念出問題を相談していた頃、早稲田の尾崎定次郎邸では、尾崎の前に金海英夫が正座を崩すことなく、何やら密談を展開していた。

「いゃ―ぁ、ヨウイチのアホがあんな事位上手くを切り抜けられないなんて・・・此の先もっと不味い展開に為るな」
「先生、ヨウイチって今韓国に居る新井洋一の事ですか?」
「何を寝ぼけた事言っているんだ!お前さんは・・・。今ヨウイチと言えば、都知事の禿げの事だろう」
「あぁ、盛んにテレビや議会で見苦しい言い訳に汗まみれに為っている、舛添要一ですね。」
「禿げは、正月の三日の日に出版社の社長と合っていたと言い繕ってはいるが、実は東京都庁内に有る≪韓国利権≫の事で、此の俺と密談をしていたんだぜ。」
「尾崎先生が牛耳って居られる韓国利権の事で舛添と密談ですか」
「そうさ、其の事が世間の明るみに出て来てみろ、それこそ疑獄事件へと発展する事,火を観るよりも明らかなんだ」
「そうすると、今韓国へと持ち去られている韓国利権に関わる証拠の念書を何としてでも尾崎先生の手元へ取り戻しておかねばならない訳ですね」
「禿げが、都知事に為ってした事の中に、都有地を韓国政府の依頼の元、韓国人学校へタダ同然で貸し出す事が有っただろう。あの土地は売れば40億円は下らない土地だ。更に、韓国人用の老人ホームへの拠出金8億円も、禿げの決済で実行しているしな・・・」
「都知事と言うのは、かなり自分で物事を決められるもんなんですね」
「そうさ、東京都は国からの交付金を1円たりとも貰って居ないから、国の会計検査院が手を出せない訳だ。そして、都の経費の中から密かに念出し続けている裏金が腐るほど、プールされて居るんだ。だから、ここのトップに座る事は夢の様な贅沢が眼の前に有ると言う事だよ」
「其れは昔からの闇の習慣なんですか?」
「そうだよ。石原が国士ぶって、尖閣諸島を東京都が買うと言いだし、15億円ものカネを集めたのにも別の狙いが有った事だし、東京オリンピック問題をブチ上げたのも、あれはオリンピック利権で石原親子を始めとするファミリーに金が逆流させるシステムを作り出す為の物で、息子が将来の総理の椅子に座る為の兵站作りの一環にしか過ぎない」
「尾崎先生は昔から、色々な韓国利権に首を突っ込んで居ましたからね」
「禿げの母親は韓国人であるから、韓国人独特の生活習慣が息子の要一にも自然に染みついており、テレビ会見の際に禿げがコップの水を盛んに飲んでいたあの仕草は、(朝鮮飲み)というスタイルなんだ。彼自身も自分の著書(私の原点・そして誓い)と言う中に、(私の父は自分自身の選挙ポスターにハングル文字でルビを振った始めての人です)と書いている」
「まぁ、尾崎先生と舛添の関係は、今の説明で少し理解できましたが、其れが今何で急に心配問題として浮かび上がって来たんですか?」
「だから・・・禿げと繋がっている韓国利権の元となる念書を、韓国の地から取り戻しておかないと、可罰的違法行為に該当してしまうからな」
「冬ごろに、新井英彦を韓国に渡らせて父・洋一を通して其の念書を手元に取り戻そうと言う計画をゆっくりと考えて居ましたが、禿げが都議会の百条委員会で全てをゲロしてしまわない様に、別のルートで禿げの首切りも急がねば為りませんね」

 早稲田の尾崎邸では、文春砲とは別の意味での問題が話し合われて居たのであった。
No.25 2016年07月19日 
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【連続囲碁小説】 外来 第2章 助走 2

英彦と泰子は三宝寺の蓮池の淵を離れ、ブラブラと三宝寺池のメタセコイアの群生地のベンチまで歩いて来た。
そこは暑い日差しを凌ぐのにとても良い場所で、眼の前には三宝寺池の端に建つ厳島神社の分社が見渡せた。

「僕は父を捜しに韓国まで行く費用として15万円ほど用意できないかと思い、其れを稼ぐために、学園近くのマクドナルド富士街道店でアルバイトをしてみる事を考えて居ました。」
「マックでバイト?」
「学園の主任さんには、韓国へ行く為と言う事は話さずに、チョット使う目的が有るのでアルバイトしても良いですか?と相談してみたんですよ」
「そうしたら・・・?」
「英彦君は法的に就労が許可される年齢に達しているから、アルバイトは構いませんよと、答えを貰えましたが、その後で『しかし、いま君の置かれている立場は、公費で生活の全てをカバーされているのだから、アルバイト等で得た収入の90パーセントは、学園の方で強制的に貯蓄する事に為るけれど構わないかね?』と言われました」
「私も昔学園に居た頃におんなじことを言われた事有るわよ」
「その貯蓄と言うのは、僕が18歳を過ぎて学園から出て行く時に自立費用とし渡して呉れるとの事です。だから、こうした方法でバイトをしても、渡韓費用は念出出来ない事が解かったんだ」
「そうね、其の事は児童福祉法でも、生活保護法でも、公費で生活を支えられている者は、公費意外に別収入が有ればその分公費のカットが有ると表記されて居るわね」
「僕が学園に内緒で別に収入を得たとすれば、その分東京都から降りて来る公費は削られてしまう事に為るので、学園に迷惑掛るし、学園もそんな事が起こらない様に働く事にはとても五月蠅い事が解かりました」
「そうよ・・・いま学園に里親に為ってくれる人や、養子縁組してくれる人を待つ小さな子供達が何人生活して居るか解からないけれど、此の子たちは皆ぎりぎりの公費で生活援助を受けて居るのだから大変と言えば大変なんだけれど、だからと言って勝手に働いて収入を得る事は法律で認めて居ないのよ。就労年齢に達しても働いて得たお金が自分の自由に為る訳ではないから、あんまり働く事に意欲を示さず、其れが社会に出て行った時に経験不足と為ってしまうデメリットもあるのよ。法律が全て上手く現実に対応できていないと言えば言える事なんだけれど・・・」

吉田泰子は、以前学園に居た頃の自分の経験談を色々と英彦に教えてくれた。

「こまったなーぁ」
「英君は何で御父さんの事を学園長に全て話して観れないの?」
「ウン、ヤッちゃんにも少し話したけれど、尾崎邸で聞きだした父の話の内容が、何か変な処が含まれている様に思えるから、学園長に気安く話してしまって父が法的に困る事に為るのではないかと言う心配が有るからだよ」
「そうなの? 御父さんの事を何も心配せずに話せさえ出来れば、親族我居る子として今の学園生活から離れられるのにね、可哀想に・・・」
「どうすれば良いのかなーぁ」
「法律では、公費で生活援助を受けている者は<借金をしてはならない>事を前提として公費支給して居る訳だから、私が英君の為に密かにお金を貸す事は、結果として英君を窮地に立たせてしまう事に為るのよね」
「ウン、ヤッちゃんの言う事はよーく解ります。」

 新井英彦と吉田泰子が話している様な事は、早稲田の尾崎定次郎にしてみれば、遠の昔に計算済みの事で有った。
No.24 2016年07月17日 
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【連続囲碁小説】 外来 第2章 助走 1

 新井英彦の父・洋一が、韓国の京畿道坡洲市金村洞に居る事を匂わせ、何とか英彦を渡韓させ様と企んでいた尾崎定次郎が、英彦の口からアッサリと渡韓拒否を告げられたのは、ハナミズキの花々が匂い立つ頃の事であった。

 自身の計画と自尊心をひっくり返す様なそんな答えを聴いた尾崎ではあったが、手下とも思っている金海英夫に次なる策略を授け、其の効果が表れて来るのを、早稲田の地でジッと待ち続けて居られるのは、大事を成し遂げる為には辛抱が何よりも大切であると言う事を、多くの事例から経験しているからこその事だった。

 早稲田の地で、そんな毒が熟成されつつある事を露ほども知らない英彦は、練馬区石神井公園の奥に有る三宝寺池の淵で、元・石神井学園出身者の吉田泰子と立ち話をしていた。

三宝寺池の葦は既に枯れ、湖面はスイレンの花々が咲き誇る時期へと時間は大分流れていたのである。

「ヤッちゃん、折角の仕事休みだと言うのにここまで来てもらってスミマセン」
「ウぅん、そんな事何ともないわよ。それよりも英君の御父さんの事何とか為りそうなの?」
「尾崎とか言う人物から、父の事を聴いた時は、尾崎に頼まずとも何とか自分で出来ると考えていたんだけれど、イザ自分で計画を練って見ると、僕自身だけではどうする事も出来ない、壁が立ちふさいでいる事にブチ当たり、積木がバラバラ・・と崩れてしまった様な感じなんだ」
「英君の計画がダメに為ったと言う事なの?」
「今のままでは多分無理なので、学園生活を経験したヤッちゃんに知恵を貸してほしいと思った訳なんです」
「知恵って・・・どう言う事?」
「児童福祉法についての事です」
「児童福祉法って云っても、私自身も余り詳しくは知らないけれど・・・知る範囲で教えられれば良いのだけれど・・」

 新井英彦は、先の東北大地震で母を失い、唯一生存して居るはずの父・洋一を探しに子供ながら一人で東京へ出て来てウロウロしている処を、保護されたのである。
英彦を受け入れた児童養護施設は、練馬区の石神井学園である。そして、そこで生活を送り始めてから約2年半が経過していた。

英彦の衣・食・住は勿論、高校生活等に掛る一切の費用は、全て公費で賄われている。なので、基本的には英彦は何等働かねばならないと言う苦役に就く必要性は無いのだ。自身の将来の事だけを考えていれば良い事を法律が保証していた。

しかし、それらに掛る公費投入総額は決して多くないのが現状であり、園児一人ひとりに掛る公費は、生活保護費にも近い額しか支出されて居ないのであった。

一般の生活保護者は、老齢者や障害者を除いて、なるべく仕事に就かねばならない事を要求されている。そして、仕事に就いて其処から幾らかでも収入が得られれば、その額分だけ生活保護費はカットされると言うのが建前に為っている。
つまり、生活保護費と仕事先からの収入の2重取りは、違法行為と規定されている。

しかし、ホンの雀の涙程の生活保護費では、人間一人生きて行く事は容易な事では無い訳だから、かなりの保護受給者が役所に無申告で仕事に就き、内緒の金銭を得ている場合が多い。

これは、生活保護課の職員に発見されれば、悪くすれば詐欺罪で告発される危険性も有る危険な行為だ。

マイナンバー・カードが導入された現在、保護受給者の収入はガラス張り化されており、闇の仕事であっても直ぐに発見されるシステムが出来上がっている。

「ヤッちゃんが学園に居た頃には、お金に付いての問題はどんな風に処理していたの?」
「何? お金の問題?」

英彦が今一番悩んでいるのが、渡韓費用の念出問題であった。

No.23 2016年07月17日 
(ID: - )
【連続囲碁小説】 外来 第1章 裏打ち<括り>

外来 の 第2章 助走 が、次回から始まります。

今までの登場人物の紹介をしておく事で、次回以降の理解の整理にお役立て下さい。

● 新井英彦・・・此の小説の主人公。石神井学園園児。
         囲碁で将来人生を歩んで行きたいと願う

● 新井洋一・・・英彦の父親、行方不明と為っていたが、
         韓国の金村洞に居るらしい事が判明。

● 吉田泰子・・・元石神井学園出身者。英彦に好意を掛け
         ている。

● 杉山快智導師・・・三宝寺住職。英彦の碁の師匠。

● 寺男の善さん・・・正体不明の寺男だが、英彦を助け出
           す巡り合わせに・・・。

● 学園児・孝・・・小学4年生のチビ。英彦を兄と慕う。

● 学園児・晃・・・中学1年生のパソコンオタク。

● 尾崎定次郎・・・元右翼の大物。韓国利権を牛耳る人物

● 金海英夫・・・元パチンコ店オーナー。現在大久保のア
         ジトで賭け碁を手掛ける。尾崎の手先。

● 大西友也・・・金海が飼っている真剣師。

以上が今までの登場人物のプロフィールです。

外来 第2章 助走 は、英彦が尾崎の家で、父親洋一の暮す韓国の金村洞へ出向いて、碁を打ってくれないかと言う要請を断ってから、約半年が経過した練馬区石神井学園の場面から、再開されます。
新井英彦が、何とかして個人的に韓国へ渡り、父洋一を日本へと連れ戻そうと計画を練るその前には、途轍もない大きな壁が立ちはだかっており、その問題点をどの様に乗り越えて行くかが、この第2章のテーマと為っている。
No.22 2016年06月10日 
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【連続囲碁小説】 外来 第1章 裏打ち 22

「英彦君、君が今石神井学園から地元の高校へ通っていて、勝手に韓国へ行く事は、多分無理だと言いたいのだろうけれど、その件についてはここに居られる尾崎先生が、学園長に話しを通すからなんとでも為るんだ。君が将来囲碁の世界で飯を食べたいと言う希望を持っている事は、私も尾崎先生も充分承知している訳で、そうなると日本で囲碁を学ぶよりも韓国の道場で棋力を磨きあげると言う事の方が、君の為に為らんかね?」

金海は英彦を何とか韓国へ送り込んで、崔志龍と戦わせてみようとの下心で、韓国の道場での修業という人参を英彦の眼の前にぶら下げて見せた。

「金海さん、チョット待って下さい。確かに僕は公費で日々の生活を送っている身ですから、金銭的に贅沢な院生生活は望みたくとも望めません。だから、外来という方法で棋士採用試験に挑戦してみようと考えています。韓国での生活費を頂いて向こうで囲碁の技術を向上させて見たい気持ちは有りますが、・・・しかし、金海さんのお話ですと、その崔何とかという碁打ちと結局は賭け碁を打たなければならなく為るんだと思われます。尾崎さんからの援助を受けてしまえば、韓国内での賭け碁に手を染めてしまう事に為り、日本棋院の棋士規定に違反してしまう事に為る訳で、そんな事には手を染める訳にはいかないですよ」
「韓国で一度打つ碁の事を、どこのだれが嗅ぎつけると言うのだね? 何も心配する事など無いさ」
「父を捜しに行く事は、僕として遣りたい事の一番大きな部分ですが、どうしても隠れての賭け碁を打つ事は出来ません。第一、僕はまだ16歳の子供であり、その崔何とかという真剣師に囲碁で勝てると言う保証も、実力も無い単なる囲碁オタクなだけなんですから・・・」

英彦は将来他人から後ろ指を刺される事のないように、自分の身は綺麗にしておかなくてはならないと言う一線は崩せないと思っているのだった。

そんな英彦の気持ちを敏感に嗅ぎ取った尾崎が、金海の言葉を制して、

「そうだな。英彦君の言うとおりだし、気持も尊重しなければならないネ。よし君の気持ちは解かった。今回の事は君が聞かなかった事にしておこう」

「ありがとう御座います」 

英彦は素直に尾崎の言葉に頭を下げた。

「僕の父の事は、学園の先生に相談して、なんとか別の方法で対処してみるつもりです。それではこの辺りで失礼しても良いでしようか?」

「英彦君の打つ碁を観れた事は、大変良かったと思っています。又いつか君の打つ処を観てみたいと思っています」
「それでは、これで失礼します。庭においでの大西さんにもよろしくお伝えください」

英彦が、尾崎邸を去って行った後、尾崎が部屋に残っている金海に向かって、

「金海・・・まぁ、観ていろ! あんな小童如きはなんとでも操って見せるさ! わしは過去色々な場面の裏側で、クグツの糸を操って来た男なんだぞ!」
「そうでした・・・先生の黒幕の力は・・・・」
「金海、チョット耳を貸せ・・・」

尾崎と金海が、英彦を何としてでも韓国の崔志龍と戦わし、失った利権を取り戻すべく算段を話合ったのは、小一時間程の事であった。

そんな彼らの謀略等にまるで思いも到らない英彦は、帰りの電車の中で≪父の事は、深い理由は解からずとも、なんとかせねば為らないのだ≫と、此の話の相談を誰に聞いてもらうのが良いか、思案を巡らせていた。

≪父の為に、韓国へはいずれ行かねばならないだろうな≫

そんな結論を自分に言い聞かせた時に、電車は石神井公園駅のホームへと滑り込んだ。
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