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外来の第1章は、主人公・新井英彦が得体の知れぬ男・金海英夫と知り合い、韓国の囲碁界の裏側をかいま観る事から、自身の囲碁の棋力を向上させて行く展開。 現在世界一とも言われる韓国棋院のルーツ、そして囲碁を通して韓国人が抱く、日本囲碁界への怨念・・・それらが複雑に絡み合って、主人公・新井英彦が目覚める(真の棋士への道程) |
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【連続囲碁小説】 外来 第1章 裏打ち 1 新井英彦が男に背後から声を掛けられたのは、市ヶ谷五番町の坂を地下鉄・東京メトロに乗る為に、ゆっくりと坂を下って行く途中の事で有った。 日没も次第に遅くなり、街路樹のハナミズキの薄紅色がまだハッキリと見て取れる背景の中に、其の男は英彦に近ずいて来て、突然声を掛けたのである。 「先ほどの対局は、本当にハラハラしつつ見学させてもらいましたよ。時間が差し迫る中での、黒番半目負けと言う結果だったけれど、あと5分、否あと2分だけでも君に時間が残っていたらば、あれは読み勝ちしていたかもしれない」 男の言う事は、つい先ほど終わったばかりの、アマチュア囲碁団体戦・無差別級の第4試合で、英彦が相手チームの大将格と打って居た最終局面の事なのだと、直ぐに理解出来た。 今日は午前9時から、5人1組のチーム編成で、日本棋院主催のアマチュア囲碁団体戦が、ここ市ヶ谷で全国の囲碁愛好家達を集めて開催されていたので有った。 この大会A・B・C級の他に、腕に覚えの有る強豪達が名前を揃える無差別級が有った。 この無差別級で優勝する事は、アマチュアの碁打ちとしては名誉の事でも有るから、ここには各県の代表クラスの腕自慢や、実業団所属の高段者、あるいは大学囲碁部のツワモノ達がチームを組んでノミネートして来る。 勿論、元・院生ばかりと言うチーム編成も有るので、この無差別級での優勝は並大抵の事では無い。 英彦は東京の練馬区に住んでいる関係から、普段練馬地区での囲碁イベントには数多く顔を出しており、そこでは必ずと言って良いほど優勝していた。 そんな地元での実力を買われて、練馬区役所の囲碁部の人達から、大将格での助っ人を頼まれての、今回の参加で有ったのだ。 朝一番目の対局こそ、4勝1敗で区役所チームは勝ち星を上げたものの、続く二番目の対局に為ると、英彦以外は見事に大学囲碁部の猛者達に打ち取られ、これ以上のトーナメント山昇りは出来ない事になってしまった。 残るは、負け組どおしの消化試合で有る。 棋院事務局から配られた昼の弁当を、6階の小対局室で食べ終えた後、残る2試合を区役所メンバーと共に戦う事に為ってはいたが、其の頃は既に英彦の対局熱は一気に冷え込んでいた。ただ、大将格と言う事で、無様な結果だけは残したくないと言う思いだけが、英彦に石を握らせていたのである。 英彦は3連勝して一応の面目を保つていた処、残る最後の第4試合に、元・院生経験者と言う相手チームの大将格とぶつかり、今までとは様子の異なる展開を盤上に繰り広げる事と為ってしまった。 デジタル式のタイマーが、残り1分を切った処で、英彦は次から次へと石を置いて行く、地獄モードに追いまくられ、5手先、7手先を読むゆとりも無く、時間切れ負けだけを防ぐのに精一杯に為った。 相手の元・院生側に残り3分の余裕を残し、互いに最後のダメ石を詰め終わった時点で数えてみたら、英彦の黒番半目負けと言う結果だったのだ。 英彦に声を掛けて来た男は、多分其の時其の現場に居合わせたのであろう。 二人の最後のデッドヒートを、盤の近くで見物していた人の数はかなり居たからである。 英彦に肩を並べる程の近くまで歩いて来た男は、歳の頃50歳は過ぎて居るだろうかと思われた。 品の良い仕立ての背広を着こなし、一見どこかの会社の重役風である。しかし、其れにしては車にも乗らず歩いて英彦の処へ近づいて来たのだから、どう言う筋の人なのだろうかと英彦は思いあぐねた。 「いやいや・・・これは失礼しました。私はこう言う者です」 男が差し出した名刺には《碁楽山人・金海英夫》とある。 「もし時間が許すのならば、近くのお寿司屋さんで、君に寿司でもご馳走させてもらえんだろうか?」 |
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