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我が町に不登校生やひきこもりの少年・少女等の心のケアを目的に設立されたNPO法人「★★の輪」が有ります。 その「★★の輪」が設立された当初は、近隣住民に何かしらの迷惑が降りかかるのではないかと危惧されたものですが、NPO法人「★★の輪」に参加するボランティアの人達の心温かい努力の甲斐も在って、現在は周りの住民の方々に設立目的が認知されるまでに、運営が軌道に乗りました。 この物語は、その「★★の輪」に実在していた25歳のパソコンお宅【ひろし】(仮名)をモデルとして、展開して行く囲碁ゲームの話です。 |
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《二ートB-LINE》 裏バイト 轡田さんが陽子さんと僕にお茶を入れてくださっているその時、「ごめん下さい」と言う男の人の声が事務所の玄関先から聞こえて来た。 「あのーぉ、ひろし君いますか?」 「もうじき事務所に戻って来ますけれど、今は此処に居ませんよ」 「そうですか、どれくらい待ちますかねーぇ?」 「ハッキリと解らないけれど、30分ほど待つ事に為るかしら・・」 「そうかーぁ、30分はむりだなーぁ。・・だったら、この封筒をひろし君に渡しておいてもらえませんか」 「預かっても良いですけれど、あなたのお名前は?」 「否、これを渡してもらえれば、ひろし君には意味が解る筈ですから・・・」 「あのねーぇ、名前も聞かず、袋の中身も知らぬまま預かる訳にはいかないと言う事、あなた理解出来ますか? こちらには責任と言う物が付いてくるのですからね」 轡田さんのハッキリとした言い方に相手は少し怯み、 「名前は勘弁してください。中身は一応ひろし君との間で交わした約束のおカネ30万円です。」 「そう・・大変な額のおカネね。一応確認しても良いかしら?」 轡田さんは、銀行名の印刷された封筒にはいったお札を丁寧に数え、一応受け取りましたと言うサイン入りの受け取り証をペン書きで作り、此のおカネを届けに来た30歳前後の男の人に渡した。 男の人が帰って行ったあとで、 「ひろし君に何のおカネを届けに来たのかしらね?」 「怪しげなおカネでなければ良いのだけれど・・」 陽子さんも轡田さんも30万円と言う大金に、少し心配をしているのだった。 僕は先程轡田さんが、男の人の目の前でおカネを数えている時、横目で御札をチラリと確認していた。 僕は職業柄お札の確認には確かな自信を持っており、そのお札がチョットだけ特徴のあるお札だと言う事を、一瞬に見抜いていた。 「差し出がましい事と思いますが、チョットだけ其のお札僕に見せてくれませんか?」 「どういうこと・・・?」 「多分ゲーム屋さんから流れて来たお札だと思えるのですけれど・・・それが正しいかどうかの確認です」 了解を貰って其のお札を手に取ってみた。 30枚のお札の中に4枚だけ赤い鉛筆でチェックと数字が書き込んであった。 お札に対して普通の人はこんな書き込みを絶対しないものだ。お札にチェックを入れると言う事は、お札が沢山ある様な時に、それを数えつつメモ的に印を付けて行けば、数量の間違いを起こさないという経験則から、パチンコ屋さん等で良く行われている手法なのだ。 僕は地域のお得意さん廻りとして、地元のパチンコ屋さんにも集金に度々顔を出している。 1日に何千万円もの大金が2時ごろパチンコ屋の事務所で計算されて、銀行員へと渡される。 今はパチンコ台から自動的にお札がエアーシュタ―で事務所に集まる事が多く、経理の人が赤ペンを耳にはさみつつ数合わせの確認作業に汗だくと為る。電卓で数を打ち込む前に、10枚ずつ束ねたお札に赤ペンでチェックを入れている。それがどうやらこの業界のやり方らしい。だから、お札にチェックの入ったお札は大抵パチンコ屋の手元から流れて来たお札と思って間違いない。あるいは昔のサラ金業者もおんなじことをしていたので、これら二つの内のいずれかからのおカネと思っても良い。 僕の説明を聞いた陽子さんと轡田さんは、 「そうなんですか・・・そうしたところから流れて来たおカネだと言うあなたの推理が当たって居るとしたらば、これはどう言う意味を持つお金なのかしら?」 「そう言えば、ひろし君の実家はパチンコ台やスロット台の中古品を家庭用へと電圧改造し居てるのよね。あながちパチンコ屋と無縁なおカネと言えなくも無いと想像できるわね・・・」 「ひろし君私たちの解らないところで、なにか変なことしているのではないかしら?・・心配になってきたわ」 僕達3人の前に思わぬところから、何か訳の解らない黒雲が湧きあがって来た。 このチェックの入ったお札が、悪いお札出なければ良いと話し合っている時、事務所の表で子供たちを乗せた車が、公園の清掃ボランティアを終えて戻って来た。 |
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《二ートB-LINE》ネット荒らし 陽子さんとのミーティングが終わり僕たち二人は「ヒマワリの輪」の事務所までチャリンコに相乗りして出向いた。 僕がペダルを漕ぐチャリンコの後ろで、陽子さんが付けているプァゾンの良い匂いがしている。 こんな美人が僕の姉貴だったら良いのにな―と、一人っ子の僕は思いつつ、何故か『ヒマワリの輪」との関係が出来た事に嬉しさを感じ始めていた。 「ヒマワリの輪」の事務所は、神社のすぐ近くの駐車場の一画を整地し直して、日当たりの良い処に3階建てで建っていた。 1階部分は事務所兼車庫が有り、2階部分に小さな作業場と食堂・風呂場が有る。3階部分にはこの「ヒマワリの輪」に寝泊まりしている少年9人の部屋と管理人の部屋が一つ有った。 管理人の人は何と60歳ぐらいのオバチャンで、この人は管理栄養士の資格を持ち、「ヒマワリの輪」の食事作りと雑用をこなしていると言う事だった。事務所や風呂の掃除などについては二ートの習慣から立ち直る一環として、収容者の少年たちが当番制で手当てしている。 「轡田愛子と言います。」 僕よりも先におばちゃんが自己紹介をしてくれたので、僕はチョット恥ずかしかったけれど、このおばちゃんとは何故か他人とは思えないほどの親しみを強く感じ取れた。 「つい先ほどお昼ご飯を此処の食堂で食べ終えて、今は子供たち全員で公園のボランティア清掃に出かけているのよ。3時ごろに為ればひろし君も車いすに乗せてマイクロでここへ戻って来ると思います」 事務所に陽子さんと来ても、誰一人として此処の子供たちの姿が見えなかった理由が、轡田さんの説明を聞き解った。 「昨晩はひろし君どんな具合でしたか?」 これから夕食の下拵えに取り掛かろうかと準備を始めた轡田さんに、陽子さんがここの問題児と言う三上ひろし君の事を軽く聴いてみた。 「あの大きな体の処に、下半身の麻痺と言う事が重なって昨晩も中々寝付けなかったようです。車いすにでも乗せて外へ皆と行けばそれだけでも気持ちが楽になると思い、今日も他の子供たちが公園の掃除に出かけるのに付いて行かせました。本人は『車いすに乗ってゴミ拾いなんか無理だ』と言うのですが、私はゴミを拾わなくても良いから、誰かに車いす押してもらいつつ外の美味しい空気を一杯吸っていらっしゃい。そうすれば夜もグッスリと眠れると思うから・・・』と言うのですけれど、ヤッパリあの体なので運動不足も有り、夜は全然眠れないみたいです。昨晩も2時3時まで、ネットゲームを私に隠れてやって居たみたいです。」 轡田さんはひろし君の体の事を考えると、遅くまで起きている事を叱るべきなのか、少しは大目に見逃しておくべきなのか、未だに迷っているのだと陽子さんに説明していた。 「私も最初はおばちゃんみたいに考えていたけれど、ヤッパリ彼の立ち直りについて考えるならば、其処はキチンと彼に説明して、生活習慣を切り返させねば駄目だと思うように為りました」 陽子さんの言い分に轡田さんは、 「他のおチビちゃん達が『ひろしの兄貴はゲームの達人だね』等とパソコン操作の腕前を褒めるので、益々ゲームにのめり込むみたいです」 「そりゃーそうでしよう。父親の処が、ゲーム機の改造を飯の種にしているのだから、其の子供もゲームの事には人一倍詳しい訳よ。おばちゃんには説明してないのだけれど、ひろし君がネット荒らしだけでなく、今や其の上を行く問題行動で、チョット困った事が起こりつつあるのよ」 陽子さんは此処に来る前、マックで僕にひろし君のネット荒らしの事や、パチンコの裏ロムの事にひろしがこれ以上問題と為る行為に手を染めないように、僕に其の対策を要請したので有った。 管理人の轡田愛子さんは、年寄だからそうした若者たちの行動について、深くは考えていなかった様なのだ。 陽子さんが、僕とマックで話しこみ、時間をわざと送らせて此処へ来たのは、ひろしと言う問題児が、公園へと行っている事を承知しての事で有り、僕がどう言う立場でここの『ヒマワリの輪」に、力を貸せるのか轡田さんに説明する時間を持ちたいと言う事で有ったのだ。 |
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《二ートB-LINE》 ミーティング 陽子さんの『ヒマワリの輪』へ出向く最初の月曜日が遣って来た。 出向くのは午前10時ごろでも良いと言う話であったので、何時ものスーツではなく、チョットオシャレなブルゾンに着換えている処へ着信アリ。 事務所から少し外れたマックの2階を落ち合う場所に指定して来たので、僕は家からチャリンコに乗って、マックへと出向いた。 マックの2階へと上がって行くと、陽子さんが座って居る席の近くに居る二十歳すぎの男どもが、チラチラと横目で陽子さんに視線を注いでいる。どうやらどこへ行っても陽子さんは男たちの本能を擽る存在らしい。そんな陽子さんに呼び出された僕は何だか男としての価値観が高まった様な錯覚さえしてしまう。 「つばさくん、こんなところで悪いんだけれど、事務所に顔を出す前に、2時間ほどミーティングをしておきたいと思ったのよ」 「ミーティングですか。・・そうですね、僕は事務所の事何も解らないままなので、色々とレクチャーして頂ければ助かりますし、僕からも聴きたい事が少しあるので、丁度良い設定だと思います」 今の『ヒマワリの輪』で一番問題と為って居るのは、例の竹内力の事だと言う。 「竹内力・・・なんて言ってしまったけれど、問題児の男の子の名前は、三上ひろし君と言って、元はこの辺りの暴走族を束ねていた子なのよ。」 「えっ、暴走族なんですか、それだったらば二ートとかではなくて、逆にイケイケドンドンの行動派何ではないですか。」 「そう、以前はね。しかし、他の暴走族との集団喧嘩で大敗し、其の時下半身不随の体に成った事で、それからズ―ウっと家に閉じこもりが始まったと言う訳。後で竹内力と合ってみると解るけれど、ひろし君の顔つきは竹内力と瓜二つ。違っているのは、閉じこもって暴飲暴食をした結果、200キロ近くの超巨大デブになってしまつたこと。今じゃ体を動かす事が大の苦手。」 「だったらライザップとかで食事制限する手もあるんじゃないですか?」 「そんな事には興味を示さない悪ガキなのよ。私が此の子の母親から立ち直りを頼まれて、三上君を引き受けたと時は、私なりに何とか出来ると言う思いは有ったのだけれど、引き受けて1カ月目に此の子がトンデモナイ家庭の子だと言う事が判明し、一度は追い出そうとさえ思ったのだけれど、そんなトンデモナイ理由で簡単に投げ出していては、私の負けで有り、事務所を始めた意味がないじゃないのと私自身に言い聞かせた訳。今では事務所の関心ごとの半分がこの三上君に向けられ続けているのよ」 「何ですか、そのトンデモナイ家庭と言うのは?」 「あなた方の言葉で言う【特殊指定通報人】が、此のこの父親だったのよ」 「あぁ、いわゆるヤクザ屋さん」 「いえいえ、今は組織を離れて家庭用パチンコ台とかスロットマシンの販売をしている事業者なんだけれど、元ヤクザという肩書が有るので、銀行やら不動産会社等とは取引が一切出来ない家庭なのね」 「そうですね。彼らが完全に組織と縁を切っても、最低5年間は取引をお断りするように、警察の指導が来て居ます。クレジットカードも彼らは作れないんです」 「三上君の父親の今の仕事が、スロットマシーンの家庭用への改造だから、ゲーム機についての知識が三上君は凄くて、パソコンを使ったハッカーみたいな事を自慢しているから、私の事務所で預かっている子供たちは、皆三上君にあこがれて、リーダー格に祭り上げられてしまったから、いまや手のつけられない悪ガキと言う訳」 「グレムリンって訳ですか」 「つばさ君はパンダネットというサイトで、囲碁を楽しんでいるのでしょ?」 「ハイ。しかし、何で僕がパンダで碁を打っている事を、陽子さんはご存じなんですか?」 「其の事は私も知らないわ。只、竹内力があなたの事を結構褒めるのよ。」 「三上君もパンダを遣って居ると言う事ですか?」 「そうらしいわね。つばさ君の事をとても褒めると言う事は、逆に考えると、三上君をコントロールできる要素が有るのではないかと、私は思うから、三上君に『つばさ君を此処のボランティアとして来てもらおうかしら?』と、探ってみたら、一も二も無く喜んでいたのよ。だから、私は思い切って支店長に相談に伺ったと言う訳」 「えぇーっ。そんな訳が有ったんですか。つまり、僕は三上君がまき散らす悪さへのワクチンと言う訳ですか?」 「ふっふっっ・・・ワクチンって言う言葉的を得ているかもね。そんな訳だから、なんとか手助けをしてほしいのです」 「三上君は要するに悪さを色々やってはいるけれど、パンダも遣って居るという囲碁愛好者なんですね?」 「私は囲碁というものを良く解らないけれど、私が今話した事は伏せておいて、なんとか三上君を正しい道へと引き戻してほしいんです」 ミスコンテストで2度も栄冠を得ている陽子さんの笑顔を前にしては、誰もが嫌と言う返事は出来ないであろう。 ヒマワリが常に太陽の方を向くのと同じで、僕も陽子さんの顔を見れる不思議な嬉しさに、出来る限りの力を出してみようと決意を固めた。 |
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《二ートB-LINE》プロローグ 「つばさくん、支店長が呼んでいるわよ」 僕は某地方信用金庫の営業マンです。 年が明けて初めての外回りから戻って来た僕に、女子行員が教えてくれました。 廊下を隔てた支店長室へ入って行くと、接客用の皮張りのソファーに美人が一人、支店長と話しこんでいます。 「あっ、お客様とお話中ですか・・僕出直します」 「いや、良いんだ。私からよりも、この人から詳しい話を、君が聴く事の方が適しているから・・」 「営業一課の浅田つばさと申します」 僕は外回りで常日頃配り歩く信用金庫の名刺を、三十路の美人に差し出した。 支店長が座れと指示した椅子に腰かけ、この部屋に呼び出された訳の説明を受けた。 話はこうである・・・・・ この街には有名な神社が有り、其処の宮司さんの娘さんと言うのが、いま僕の目の前に座っておられる方だ。 宮司さんのお名前は岡本善一郎さんと言って、この地に代々続く名門の家柄・岡本総家のご長男だ。その善一郎さんはこの街にあちらこちらと広大な土地を所有し、多額の納税者としても有名な地主さんでもある。 その岡本さんの一人娘で有る陽子さんが、今僕の目の前に座っておられるのだ。 陽子さんはいま地区の民生委員をしておられ、いずれはお婿さんを迎え入れなければならないらしい。そして父上の希望通り神社をお婿さんへと引き継ぎ、地域の氏子さん達を安心させねばならないらしい。 僕の勤めている信用金庫では、岡本家の資金管理は重要な案件であり、支店長と言えども岡本善一郎氏には頭が上がらないのだと聴いている。 この岡本陽子さん、考えるところが有って、神社近くの駐車場の片隅に『非営利公益法人・ヒマワリの輪』という施設を設立して、其処の代表に就任したと言う。 この街だけでなく、近隣からも不登校の生徒やら引きこもりを続けている子供たちを預かって、なんとか彼らの就労支援の手助けをしたいと言う事らしい。 以前、この街の別のところでは有ったが、少年院やら刑務所を出て来た身寄りの薄い人を保護する某保護会が有った。でも、その保護会の近くで数多くの不審な事故や事件が続いたため、その地域の人々の間には保護会たちのき要請の署名活動などが起こり、何時しか保護会は別の処へと移転の憂き目に会う事となった。 陽子さんの始めた「ヒマワリの輪」も、そのような問題が起こるのではないかと、近隣住民は最初危惧したと言う。でも、其の心配も一年が経過してみると、意外にもトラブルは起こらず、地区の人ちたの認知を受けるまでになった。 陽子さんの明るい人柄と、ミスコンテストで優勝したほどの輝く容姿にスケベ親父どもが、賛同の声を上げたかららしい。 しかし、軌道に乗り始めた矢先の今に為って、様子が少し違って来たというのだ。 「其の事で、是非とも支店長さんのお力をお借りしたいと思いますの・・・」 陽子さんの来店目的は、ボランティア要員として、是非とも僕にその協力をしてくれるよう、わざわざ支店長の許へ面会に訪れたと言う。 此処までの話を聞いて、僕は疑問点を問いただす事が必要である事に気が付いた。 「何で僕でなければならないのでしようか?」 「それは・・・竹内力のせいなのよね」 訳の分からない返事が陽子さんの口から戻って来た。 竹内力?? あのいかつい顔つきの強面俳優の?? こうして・・・岡本陽子さんの要請により、僕は支店長命令で、一週間の内「月曜日・木曜日」を『ひまわりの輪』へと出向き、陽子さんの手助けをする羽目に為ってしまった。 月曜日と木曜日に信用金庫に顔を出さずとも、何ら給料計算には何も影響しないと言う支店長の確約も頂けた。 僕は、支店長が資本家にも等しい人種にこんなにも弱いのか、はたまた美人の陽子さんに特別弱いのか、正解を出せないまま支店長室を後にした。 こうして、僕と『ヒマワリの輪』の関係が始まる事と為ったのです。 |
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